If not taller, grow wider.

教習所のはなし

2022-12-31 Memoir

ついに普通自動車免許を取得した。11月初旬に教習所を卒業して以来一向に試験場に向かう気力が生まれず、生まれても早起きできず申し込めないという生活を繰り返していたが、流石に年内に取らないと世間体が許さないという危機感だけを以ってして数日前に本免を受け、合格を勝ち取った。もう教科書やその他資料は一切必要ないので年末の大掃除に併せて処分をしていたのだが、およそ2ヶ月も通っていないにしては教習所について色々思い出があったのでここに書き残しておく。

教員の評価システム

その教習所には、気に入った指導教員を優先的に自分の教習担当にしてくれるようリクエストするシステムがあった。生徒側のメリットは言わずもがな、アドバイスが的確であったり、安心して教習を受けられる教員を客観的に評価するという意味で会社側のメリットも大きいのであろう。僕はついに一度も利用しなかったが、一緒に通っていた友人は何人かリクエストしていたので需要もおそらくある。

恐ろしいのは、この逆のシステムもまた存在するところである。要は気に入らなかった指導教員を自分の教習担当にしないようにリクエストするシステムである。教員からしたらたまったものではない。会社からすると先のお気に入り登録システムと同じメリットがある、それは分かるしネガティブな感情を持つユーザーの方がフィードバックをくれると言うのも分かるのだが、こんな「お客様は神様」精神の成れの果てのようなシステムが存在して良いのだろうか。教員と生徒の数を考えれば、ヤバい教員よりヤバい生徒の方が遥かに多いはずで、ヤバい生徒がこんなヤバいシステムを使ってしまったらろくな職場環境にならないことくらい容易に想像がつく。教員みんながみんな補習塾のような褒めて伸ばす指導方法だったこともこれを考えれば納得できる。このシステムの恐ろしいところは、生徒からの評価が主観的かつ相対的で、「みんな優しいのにあの人だけちょっと厳しいから逆お気に入り登録したろ」というように、運転について指摘をすればするほど評価が下がるような事態が起こりうることである。僕がこのシステムを使わなかったように、他の生徒もあんまり使わないでいてくれると良いな、と思いながら技能実習の度に褒め散らかされたのも良い思い出である。

教習中の会話

先のシステムの影響もあって、教員は総じて饒舌であった。というより最初は饒舌で、生徒の肌感を掴んで話し方を変えてくるような感覚があった。僕は僕で黙っていると緊張してしまうので教員の話題に乗っかってぺちゃくちゃ喋っていたのだが、どこで僕のプライベートに踏み込むかが本当に人それぞれなところがすごく面白かった。特に路上教習なんかは2時間続きなので、一切お互いの私生活に触れずに話し続けるというのはほぼ不可能なのだが、ずっと世間話で乗り切る猛者もいれば開始1分で出身地を聞いてくる教員もいた。僕は自分で個人情報を全部インターネットに上げてしまっているのでプロフィールに関しては聞かれれば何でもかんでも答えてしまうが、割と学年すら明かしたくないレベルでセンシティブな生徒もいるので、ここも教員は肌感で調整しているのだろう。そういう意味で開始1分で出身地を聞くのは流石にリスキーすぎやしないかと思ったりもしたが、またそれも彼の戦略なのかもしれない。

2時間も話していると、どうしても教員の思想みたいなものが浮き上がってくるもので、ロン毛顎髭なのにめちゃめちゃ保守的だったり、マッシュルームなのにA Tribe Called Questが好きだったりする教員がいてバイアスを取り除く良い訓練になった。
たまに痛い教員もいて、僕が慶應高校在籍だと知った途端、「俺も慶應大学は受けたけど云々が云々で受からなかった。だけど云々大学では結局ほとんどの慶應生より充実した生活ができたんじゃないかと思ってる。学歴だけが全てじゃないんだよ」などと聞いてもないコンプレックスを暴露してどうしようもない雰囲気にされたこともあった。慶應出身、何なら東大出身の友人も沢山いるだとか慶應出身でも自分より年収の低い奴だっているとか、話せば話すほど墓穴を掘るようで、彼の内に秘めた学歴に対する執念が溢れ出てきて胸が締まる思いだったが、ここで逆お気に入りシステムのお世話になるほど気の短い人間ではないのでグッと堪えて数回に渡る教習に耐えた。耐乏精神ここに極まれり。

ベタ褒め対策

先にも述べた通り、教員は基本的に褒め続ける。特に所内教習の場合、よっぽど救いようのない運転をしなければ終始褒められっぱなしというのがデフォルトなんじゃないかと思っている。僕は序盤からあまりに褒められるので懐疑的になり、先のシステムを知って疑いが確信に変わったので、それからは左折/右折をした後に自ら何が良くて何が悪かったかを聞くようにしていた。

路上に出たら厳しめに言ってくれるかと思いきやそんなことはなく、一方通行なのに道路右側に寄らずに右折した時も「ちなみに今の道一方通行だったけどまあ全然OKです。」などと言われたことがある。また、趣味を聞かれてプログラミングと答えると、「プログラミング?だからか!プログラミングやってる人ってみんな運転センスあるんですよ!」と言われた。嘘をつくんじゃない。一日中キーボードを叩いてるだけの人間にセンスが芽生えるわけがないだろう。スポーツでもやって動体視力を鍛えていた方が有利に決まっている。

節々でちょっとずつ褒めてくる教員もいて、そういう場合僕はすごく機嫌が良くなってしまうのだが、僕の動作全てを褒めてくる教員に対しては少しPatronizeされているというか、嫌な気分になることもあった。むしろ一度だけ縦列駐車で担当になった、ずっと「それじゃあダメだよぉ」しか言わない年配の教員の方が僕は好きである。本当に自分の運転スキルがどれくらいなのか知りたい時は、いちいち自ら聞くのが吉だというのがここで伝えておきたいことである。